美術作品にはモノとしての存在感と時代を経て存続してきたことによる年輪があります。目の前の作品は、画家や彫刻家がじかに触れ、その後多くの人たちがそれぞれの思いでまなざしを向けてきた対象(もの)です。美術史を研究していて一番よいと思うところは、そうした歴史の厚みに作品を通して直接触れ合える瞬間があることです。作品を中心にかたちづくられたさまざまな歴史、それを資料に照らして読み解き、自分なりに再構成するのはとても楽しくやりがいのある仕事です。もともと自分自身、絵を描くのが好きだったからという単純な理由で始めた美術史研究でしたが、いまだにそれに魅力を感じ続けているのは何といっても、そうした歴史の証言者としての作品にじかに問いかけるという贅沢な鑑賞体験があるからに他なりません。伝統ある東北大学の美学・西洋美術史研究室に在籍し、このような美術に対する向き合い方を学んだことは、今後の私の研究にとっても常に大きな指針であり続けることでしょう。

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